包茎和幸:1

 夕暮れの下、高校生の田中和幸は、溜め息を吐きながら歩いていた。
 彼は今、銭湯に向かっている。
 行きたくて行っているわけではない。
 彼の家の風呂釜が故障して、1週間ほど銭湯通いをしなければならなくなったのだ。
 和幸にとって、「見知らぬ人達の前で裸になる」という行為は、たまらなく恥ずかしく、耐えがたい行為であった。
 それでも、1週間も風呂に入らないわけにはいかない。
 嫌々ながら、和幸は、家からほど近い銭湯に向かって足を進めた。

 そこは、いわゆる「スーパー銭湯」と呼ばれる施設であった。
 広い浴場に、いくつもの種類の湯があり、別室にはサウナ室や露天風呂などもある。
 常連客と思われる中年や老人から、走り回る子供たちまで、客層も様々だ。
 庶民的ではないが開放された、明るい雰囲気の銭湯だった。
 …そんな場所で和幸は、見るからに憂鬱そうな表情で、浴室の入り口付近で突っ立っていた。
 もちろん全裸だが、腰には長めのタオルが巻かれており、完全に陰部を隠している。
 さらにその上から手を添え、前屈みになりながら、和幸は歩き出した。
 左には、身体を洗っている男たちの背中が並び、右には、湯に浸かっている男たちがいる。
 その間を歩きながら、空いている席を探す和幸。
 その時、いきなり和幸に後ろからぶつかってくる者がいた。
 はしゃいで走り回っていた、幼稚園ぐらいの子供だ。
「あっ…!」
 バランスを崩し、前に二、三歩よろめく和幸。
 同時に、ぶつかった子供も転びそうになるが、咄嗟に和幸の方に手を伸ばす。
 その拍子に子供は、和幸の腰に巻いていたタオルを剥ぎ取ってしまう。
 そして、タオルを手にしたまま、子供は結局派手に転んでしまった。
 泣き出す子供。
 周りにいた男たちの注目が、一斉に子供と、和幸の方に向く。
「あ…ぁ…」
 和幸は、取られたタオルを取り戻そうとするが、子供はタオルを握り締めたまま泣きじゃくるばかり。おろおろしていた和幸だが、そこでようやく、自分が股間を丸出しにしていることに気が付いた。
 和幸の股間にぶら下がっているペニスは、包茎だった。
 サイズは大きいとも小さいとも言えないが、先端はすっぽりと包皮に覆われている。
「やっ…!」
 慌ててペニスを片手で隠すと、和幸は泣きじゃくる子供に近付き、頭を撫でる。
「大丈夫? どこが痛いの?」
 股間を隠しながらの滑稽な格好でそう言いながら、何とか子供をなだめた和幸は、数分後、ようやくタオルを取り戻すことに成功した。
 再びタオルを腰に巻く和幸。
 しかし、一瞬でも、気にしている包茎ペニスをさらけ出したことで、余計に周囲の視線が気になってしまう。
(気にしちゃ駄目だ…包茎なんて…僕だけってわけじゃ…)
 そう自分に言い聞かせながら、ようやく空いている席に座り、軽く身体を洗った後、湯船に入る。さすがに湯の中にまでタオルを巻くわけにもいかず、素早くタオルを取り、ざぶんと首近くまで浸かった。
 ちょうどいい湯加減に、ようやく和幸の気持ちが落ち着いた…その時。
「よお」
 いきなり右肩を叩かれる。
 ビクンと身体を震わせる和幸。
 彼の肩を叩いたのは、同じく湯船に浸かっていた、大柄の中年男性だった。
 中年男性は、肩が触れ合うぐらいに和幸に近付いてくる。
 そして、耳元でささやくように、言った。
「可愛いチンポしてるじゃねえか」
「……っ!」
 瞬時に、和幸の頬が染まった。
 男は、和幸の肩を抱き寄せ、さらに耳元でささやく。
「高校生か? それにしちゃ、小さいチンポだな。しかも皮まで被っちゃってよ」
「や…やめてください…」
 男の手を振り払う和幸。だが男は、懲りた様子も見せず、再度和幸に身体を摺り寄せる。
「今も見えてるぜ、お前のチンポ」
「……!」
「お湯の中でユラユラ揺れてる包茎チンポが…」
 男から股間を隠すように身体をひねる和幸。
「そんなチンポでも、高校生だからな。毎日オナニーしてるんだろ? 剥けないチンポでよ」
「い、いい加減にしてください!」
 顔だけを男の方に向けて、キッと睨みつける和幸。
「そう怒るなよ」
 男はニヤニヤと笑いながら、それでもようやく和幸から距離を置いた。
 そして男は、和幸より先に湯船を出る。
「明日も来るのかい?」
「……」
 無言の和幸の耳元に、男は再び顔を近付けて、ささやいた。
「また見せてくれよ、その可愛い包茎チンポ」
 そして男は、去っていった。
「……」
 和幸は、それからしばらくの間、湯船から出られないでいた。
 股間を両手でギュッと押さえて、唇を噛む。
(…どうして…)
 和幸の包茎ペニスは、勃起していたのだ。
(オチンチン見られて…あんな事言われたのに…)
 認められないペニスの反応に歯噛みしながら、和幸は、勃起が静まるのを待つしかなかった…

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