描かれる包茎男子
「古代ギリシャ時代では小さな包茎こそが美しく理想的だとされていたんですって」
淡々とした口調でそんな言葉を紡ぐ少女。キャンパスを前に椅子に腰かけ、長い黒髪を時折揺らしながら淀みない所作で鉛筆を走らせている。
「私も同感です。セックス以外の時に剥けてだらしなく垂れ下がったペニスを出してるなんて不潔だもの」
そして彼女は、キャンパスの奥に立つ少年に鉛筆の先を向ける。
「その点、貴方のは理想的です。玉の上に可愛らしく乗っている皮被り……まさに理想のペニスなのよ」
村上有斗(むらかみ・ゆうと)、高校1年生。彼には姉がいた。
「モデル頼まれてくんない?」
そう言われ断ることもできないまま事は運び、今に至る。
場所は美術部の部室。描きかけの絵画や彫像が乱雑に置かれた、帰宅部の有斗でも何となくイメージできるいかにもな部屋。そこで美術部員達を前にしてのデッサンモデルをする、はずだったのだが。
部屋にいるのは有斗とあとひとり、黒髪ロングの少女だけだった。
美術部部長、漆崎美月(うるしざき・みつき)。
才色兼備を形にしたような彼女のことは有斗も知っていた。温和な性格で人気者、有斗の姉からも熱のこもった話を聞かされている。同時に、社長令嬢らしく校内で好き勝手なことをやっているという噂もある。その真偽はともかくとして、少なくともこの現状は「姉にだまされて美月に差し出された」ということだろう。
「ようこそ、村上有斗君」
部室に入って美月しかいないことを知り、彼女から笑顔で挨拶をされた時点でそこまで考えた有斗だったが、その後の台詞までは予想できなかった。
「早速だけど、脱いでくださる?」
こうして有斗は、美月の前で全裸になり、台座の上でポーズを取っている。
ミケランジェロ作のダビデ像。知識のない有斗でも見たことのあるあの像のポーズだ。
同年代の異性に裸体を晒すことに抵抗はあった。だが美月は淡々とした口調でダビデ像についての解説を語り、あくまで芸術活動の一環だと念を押してきた。その声があまりにも落ち着いていて、恥ずかしがっている自分の方がおかしいのではとさえ思うほどで、承諾することになったのだった。
服を脱ぎ、パンツも下ろして、台座の上に立つ。足を広げ、胸を張り、右手は横に、左手を上げる。陰部を一切隠せない状態で美月と対面する。
そのとき、今まで感情の見えなかった美月が微笑みをみせた。あやうく意識が股間に集中しそうになるのを堪える。
「ねえ、そのポーズの意味はご存知?」
「え? あ、ええと……」
「それはね、戦いに挑む直前の英雄ダビデを描いたものなの。ゴリアテという巨人に挑む力強さ、そして緊張感を表現した素晴らしい作品なのよ。あと――」
美月の言葉が淡々としたものに戻ったことで、有斗は何とか気を逸らすことができた。
ダビデ像に興味を持つ美月は、その再現を目指した。そして姉から有斗のことを聞き、理想のモデルだと目を付けたのだという。有斗が乗っている台座や左手に握る投石器も自作したとのことで、並々ならぬ情念を感じると同時に、「好き勝手やってる」噂が本当だったと痛感させられる。
「――ねえ、有斗君」
唐突な呼びかけに心臓が跳ねた。
「貴方、ご自分のペニスについてどう思って?」
静かに鉛筆を走らせる動きは変わらないまま、突かれたくない話題を向けられて口ごもる。
「先端まですっぽりと皮を被ってるわよね」
「そ、それは……」
「ごめんなさいね、責めてるわけではないの。その逆。
ダビデ像をごらんなさい。大柄で引き締まった体つきなのに、その中心にあるのは小さな皮被り……古代ギリシャでは小さな包茎こそが美しく理想的だとされていたんですって――」
もう意識を逸らすことはできなくなった。
美月の淡々とした口調は変わらないようで、どこか熱っぽさが加わったようにも思える。有斗のペニスのことはおそらく姉から聞いたのだろう。ともあれ彼がモデルに選ばれた一番の理由は、密かにコンプレックスにしていた包茎ペニスだったということだ。
「さあ、もっとよく見せて」
その言葉がとどめになった。
かろうじて平常時を保っていた有斗のペニスがピクンとひとつ跳ね、むくむくと膨らんでいった。
「あっ、すいません……」
「動かないで」
慌てて股間を隠そうとする有斗を美月が一言で制する。静かながらも有無を言わさぬ強さがあった。
「まだデッサンは終わってないの。元のポーズに戻って」
閉じかけた足を開き、両手を戻し、背を反らす。だが、
「どうしたの?早く戻しなさい」
いったん膨らみ始めたペニスを元に戻すことはできなかった。
花のつぼみのような形状は若干膨張して棒状に変化し、そのため包皮が少しだけめくれて中身が顔を出しかけている。それ以上はいかないように必死に気を逸らそうとしても美月の視線を浴びている中では無理があった。
「私が描きたいのは勃起したペニスではないの」
ため息ひとつ吐いた後、美月は有斗を睨みつける。
「それに、古代ギリシャの男性だって、いざとなればペニスを逞しく屹立させて女性を攻め立てたのでしょう。
でも貴方のそれは何? 中途半端に膨らませて、もう戦いへ向かうダビデのものとは似ても似つかない。それなのに包皮を被ったまま。そんなペニスで何を表現したいの?」
美月の言葉を浴びるたび、有斗のペニスはどんどん膨らみを増していく。そしてびくん、びくんと大きく揺れた後、完全に上向きになってしまった。
「……あ、あの……」
さすがに股間を隠そうと身じろぎした有斗の動きを美月はひと睨みで制し、椅子から立ち上がると、有斗の方へと近づいていく。
台座から身動きもできないまま、美月を見下ろす格好。彼女の吐息が完全に勃起しきったペニスに触れんばかりの距離。その状態で彼女は短く吐き捨てる。
「勃起してこの程度? 情けない」
そんな罵倒を受けて、有斗のペニスは自身が信じられないような反応をみせた。大きくびくんと跳ねあがったかと思うと、皮の隙間から透明の汁がにじみ出る。
それを見た美月はくすりと笑った。
「面白い反応ね。とても興味をそそられるけれど……私は元に戻せと言ったはずよ」
そう言うと右手を振り上げ、ペニスに向かって振り下ろす。
「あうんっ!」
興奮しきったペニスに強烈な一撃を受けて鳴く有斗。それだけなら耐えられたかもしれないが、その後に襲ってきた感覚は耐えがたいものだった。
「あ……ああぁぁ……っ!」
全身を小刻みに痙攣させたかと思うと、ペニスが大きく跳ね、白い液体を噴射する。
女性の張り手ひとつで絶頂させられたのだ。
「あっ、は……あぁん……」
その場に崩れ落ちる有斗。
そんな彼を前にした美月には先ほどまでの威圧感がなく、穏やかで淡々とした様子に戻っていた。
「やっとペニスも戻せたのね」
精液を出し切って蕾状の包茎に戻った有斗の股間を一瞥して、キャンパスの方へと戻っていく。
「デッサンを再開します。さ、ポーズを」
言われるままふらふらと立ち上がる有斗。
「貴方の男性器の機能や性癖については目をつぶりましょう。
これからしっかりと貴方のそのペニスを描かせてもらうから、覚悟なさい」
美月には気付かれない程度にペニスがぴくんと震え、包皮の中に残っていた白濁液がちょろりと漏れた。
<終>




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