包茎男子、見栄剥きしてデリバリーに挑む

「デリバリーサービスで~す!」
インターホン越しに響いてきた可愛らしい女性の声に、僕は思わず立ち上がる。
待ってはいたけれど本当に来るなんて、最後の最後まで信じられなかった。
表向きはピザの宅配、でも実際には配達してくれる女性を自宅に迎え入れて「いろんなコト」をする。密やかに運営されているそのサービスの存在を知ってから、今夜にこぎつけるまでどれほど苦労したことか……それもやっと報われる。
これでやっと童貞を捨てられる。
勢いよく立ち上がったとき、既に反応を始めていた股間に痛みが走ったが、腰を引いて耐えながら玄関へと向かう。
扉を開けると、そこには想像していたよりもずっと美しい女の人が立っていた。
「ご利用ありがとうございます、お届けに参りました~!」
元気のいい声は通路の隅まで響いたに違いない。僕は挙動不審になりながら外の様子を伺いつつ、一歩下がって彼女を部屋の中へと迎え入れようとする。
「ど、どうぞ」
「では失礼しま~す」
僕よりは年上だろうけど、二十代半ばくらいだろうか。カモフラージュ用に宅配用の保温バッグを提げているものの、太腿まる見えの黒いタイトスカートにハイヒールを履いている姿はとても宅配員には見えない。
「――さてと」
玄関にあがり扉を閉めた途端、声のトーンを落とした彼女は言った。
「じゃ、服を脱いでくれます?」
予想外の言葉に絶句している僕に構わず彼女が続ける。
「最終確認ってやつですよ。お客様には様々な書類を提出して頂きましたけど、虚偽があると困りますからね」
「虚偽って、あそこまでしたのに……」
このサービスを受けるため、ありとあらゆる情報を提供した。一般的な個人情報だけでなく、性病の有無をはじめとする健康状態、そして肉体的なこと。具体的には、性行為に足る機能を備えているかどうか。そんなことを赤裸々に申告させられ、最後には全裸写真まで提出させられたのだ。
「そうですね~」
彼女が保冷バッグに手を突っ込んで取り出したのはタブレット。数度のタッチで映し出されたのは、僕の全裸姿。
「この写真が本物かどうか、チェックするだけですよ。今からヤルことを考えたらたいしたことじゃないですよね?」
笑顔で押し切られ、僕は玄関に立ったままの彼女の前で服を脱ぎ始める。上着、シャツ、ズボン、そして最後にパンツを下ろす。
「では確認しますね~。あ、隠さないように手は頭の後ろに組んでくださいね」
彼女の視線がタブレットと僕とを行き来する。
「加工などは無いようですね。確かにご本人様のようです。アソコも同じようなそそり立ち具合ですし」
僕のペニスはもうずっと勃起しっぱなしだった。パンツを下ろす時の布地の擦れで声が出そうになるのを我慢するほどの興奮状態だったが、平静を装った。だが、
「な~んだ、油断してるかと思ったのに」
彼女の言葉の意図が読めなかった。
「ど、どうなんですか。これでいいんでしょう?」
早くセックスがしたい、童貞を捨てたい、その一心でここまでやったのに。懇願するような僕の言葉に、彼女は笑顔のまま返してきた。
「お客様、当サービスの規約はご存知なのでしょう? 性行為に足る男性機能を備えていることが条件だと……それなのに、なんですか? その包茎チンポは」
「え……それは、いや、だって」
僕がさらけ出しているペニスは亀頭が露出した状態だ。しかし。
「ぷっ」
噴き出したかと思うと、盛大な笑い声をあげる彼女。
「……ね、ねえ、それで本当にごまかしてるつもりだったの? 見栄剥きなんかしたってそんな真っ赤な亀頭じゃバレバレ……あははははははっ!」
初めて異性の前で勃起したペニスを見せた結果がこの屈辱。悔しい、腹立たしい、はずなのに。
「あれ、ねえどうしたの?」
彼女に笑われている中で、僕のペニスはビクビクと上下に跳ねている。そしてその振動で、無理をして剥いて亀頭の根元に集めていた包皮が元に戻り始めてしまう。
「ほらほら、子供チンポに戻っちゃうよ~、がんばれがんばれ……あ、ダメだったね」
すっかり戻った包皮は亀頭をすっぽり覆い隠し、僕のペニスは本来の姿に戻る。うつむき肩を震わせる僕に、彼女は少し優しげな声になった。
「じゃあ始めましょうか」
「……え」
「見栄剥きの童貞クンなんてホントは相手にしちゃいけないんだけど、今日はお客も少なくて暇だったから。お金ももらってるし、時間までつきあってあげる」
そう言って玄関から部屋へとあがる彼女。家主の許可も得ず、靴も脱がないままずかずか上がり込む彼女の後ろを、僕はペニスを再勃起させながらついていく――

「ごー、ろく、しち、はち」
ベッドに腰かける彼女の前で、僕は全裸でのスクワットを強いられていた。
両手を頭の後ろに回し、股を広げて腰を下ろし、上げる。その動きで、あらかじめ見栄剥きさせられていたペニスは上下に揺れる。それだけで少しずつ皮は元に戻ってしまう。
「きゅー、じゅ……あらら、また子供チンポになっちゃったね」
「はぁ……はぁ……」
 こちらににやにやとした笑みを向けてくる彼女に、僕はおずおずと尋ねる。
「あの……してくれないんですか……?」
「言ったでしょ? 性行為に足る男性機能を備えているかって。ちゃんとセックスできる大人チンポだって証明できたらいくらでもしてあげるわよ。
さ、次はセックスの練習だと思って腰を振ってみて。童貞でもやり方くらいは知ってるでしょ?」
言われるがまま、僕は再び見栄剥きをして、腰を前後に振り始める。
「ほらほら、もっと速く!」
手拍子に合わせて腰を振る。眼前の彼女に向けてペニスを突き出す。
「そんなんじゃ女の子を喜ばせるなんて無理だよ、私を犯すつもりでもっと激しく!」
傍から見れば間抜けきわまりないエアピストン運動。それなのに僕は腰の動きを止められない。何の刺激も受けていないはずのペニスが空を切るたびに透明の汁が溢れてくるようになった。
「はっ、はっ……はぁ、うん……
あっ、ひっ!」
激しい動きに耐えきれなくなった包皮が一気に元に戻る。一瞬で亀頭を覆い隠した包皮の先端から、溜まっていた汁が噴き出す。
「あふぅ……」
その場に崩れ落ちる僕。
「あ~あ、自分の皮で気持ちよくなっちゃったんだ」
ここに来た最初の頃とはまるで違う彼女の声。優しいままだけど中身は氷のように冷たい。そんな声でなじられ、再びピュッと汁を漏らす。
「セックスしたくて私を呼びつけたっていうのに、そんな貧弱チンポでどうするつもりだったのよ? どうせ毎日皮を弄り回してるんでしょ。ここまで皮が伸びちゃってたら見栄剥きなんかしても無意味だって」
彼女の声が近くなったことに気づき、僕は顔を上げる。
「ひっ」
ベッドから立ち上がった彼女が至近距離まで近づいていたことを知ったと同時に、鋭い痛みが走る。
彼女の靴のヒール部分がペニスの余り皮を踏みつけていた。
「ここまで皮がダルダルに伸びちゃってたら、見栄剥きくらいじゃどうにもならないでしょ」
「あぅ、あ……」
「今からでも剥き癖つけて、真っ赤な亀さんを鍛えて、強いチンポにならないと、一生童貞のままだよ?
さ、もう一回、スクワットから始めましょ。立ち上がって」
「……え?」
にこりと笑顔を見せる彼女に、靴をどける気配はない。
観念して、皮を踏みつけられたまま体を起こそうとする。
「う、ああっ」
「あ~あ、みっともない皮のせいだよ」
腰を上げてもペニスは上がらず、包皮が引っ張られていく。
「あはは、伸びる伸びる。早く抜け出さないと一生セックスできない皮チンポになっちゃうよ~」
「ううう、~~~っ!」
自分でも見たことがないほど伸びていく包皮がペニス本体よりも長くなったとき、
「あっ!」
ヒールから包皮が抜け、ゴムのように弾かれる。
「ああああぁっ!」
絶頂。
包皮がぷっくりと膨らみ、先端から白い液体があふれ出す。
口を閉じたホースから水が漏れたような、惨めな射精だった。
「あはははっ、なにそれ、あははは!」
びゅくびゅくと精液を垂れ流し続ける姿をひとしきり笑った後、彼女はすっと姿を消す。
振り返ると、彼女は玄関へと歩いていた。
「本日はありがとうございました~。
またのご利用……は無理か。
そのチンポの皮をどうにかできたら、またご登録くださいね~」
そう言って部屋を去っていく彼女に応えるように、皮の伸びきった僕のペニスはビクンと大きくひとつ跳ねるのだった。

<終>

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包茎小説,単作

Posted by 直也